告発のとき
古閑 万希子,P.,ハギス
この映画は、あるブログで書かれていた感想が印象的だったので見に行き
ました。好きな俳優の笑顔やファンタジーの世界にうっとりするというよ
うな内容のものではなく、最初から最後までほとんど身動きもできずにガチ
ガチに緊張して息苦しくなって見た映画です。非常にシリアスで残酷で重い
内容の話、でもこういう作品こそ映画館で見てよかったと、紹介してくださ
ったブログの管理人さんにとっても感謝しています。
ネタバレしないように感想を書きます。
軍警察で働いていた(かなり高い地位にいた?)ハンクは次男のマイクが
イラクから帰還してすぐに兵舎から離れて失踪したという知らせを聞いて
疑問に思い、自分で息子を捜そうと兵舎や兵士が通っていたクラブなどに
行って手がかりを見つけようとします。
PG−12なので、トップレスのダンサーが踊るなどの場面もありましたが
全体的に特別目をそらせたりするような場面はありませんでした。かなり
残酷なシーンもありますが、ホラーのように血が飛び散ったりはしません。
息子を捜す父親の目から描かれていて一見淡々としたストーリーのように
も感じるのですが、重苦しさやゾクゾクとした感覚に徐々に襲われます。
息子のマイクが何者かに殺されたということは早い段階でわかってしまい
ます。この両親の二人の息子のうち兄は前に戦死していています。次男も
殺されたということを知ったときの母親の嘆き、自分も息子が2人いるので
切実に感じました。それでも父ハンクは黙々と息子の死の真相を探ろうと
します。
話が進むほどに、殺されたマイクと兵士仲間の狂気が浮き彫りになって
本当に恐くなりました。この映画は実際にあった話をもとに作られたそ
うです。人の死を間近に見てしまう戦場にいることで、人間はどれだけ
自分の感情を麻痺させて残酷さをまとってしまうのか、そのリアルさに
背筋が寒くなりました。
この映画で少しほっとする場面といえば、女性刑事のエミリーとその息子
のシーンでしょうか?少年にハンクは旧約聖書にあるダビデが巨人のゴリア
テと戦った話をします。まだ少年だったダビデはたった5個の石を武器に
誰も倒せなかった巨人と戦います。映画の元の題「エラの谷」はダビデと
ゴリアテが戦った場所です。旧約聖書のこのエピソードはおそらく勇気の
大切さを教えているのでしょうけど、現実世界でマイクが勇気を持って
イラクに踏みとどまったことがよいことなのか、考え込んでしまいました。
息子の死の真相を知れば知るほど、ハンクは自分自身の生き方、信念さえ
根底から覆されることになります。父が偉大な軍人であったからこそ起きた
悲劇かもしれません。
このような映画を見ると、本当に自分の信念も揺らぎそうです。今自分の
息子2人は普通に育っているけど、この映画のような過酷な戦場に放り
こまれたとしたらどこまで自分の良心や神経を保っていられるか、自分は
子供にどんな条件の下で生きても大切なものを見失わないだけの信念を
見せてそういう育て方をしてきたかどうか、自信がありません。この映画
の中の被害者も加害者も普通の生活をしていればこんなことはしなかった
はず、そう考えると心底恐ろしい映画でした。